神々が遊ぶ庭と田園風景のまち

北星山ラベンダー園展望台。標高300mに満たない小高い丘に、早朝暗いうちからどこからともなく人が集まってくる。目的は十勝岳連峰から昇ってくるご来光と眼下に広がる雲海だ。365日、太陽が昇らない日はない。それでも山の端を越えて届く太陽の光はいつだって新鮮な喜びを与えてくれるし、まして雲海が出現する日はいっそう特別な感動を呼び起こす。この展望台はまさにご来光を拝むためにカムイ(神々)が用意したような場所に位置している。
北星山展望台に人が集まるようになったのは、ここ最近のことだ。きっかけはなかふらの観光協会長を務める日向さんが、毎日のようにこの展望台で日の出を撮影しSNSに投稿するようになったこと。くる日もくる日も、日向さんは北星山展望台からの写真をアップし、それが口コミで話題となり、近隣から宿泊客も訪れるようになった。
「始めたのは3年ほど前ですね。最初の年はどんなお天気でもとにかく登って1年はやってみようと。結果、300日を超えていました」。

北星山展望台
↑日の出と雲海のコラボレーション。日向さんの発信で一躍有名になった「天空テラス」。

――何がきっかけだったのでしょう?

「カミさんが亡くなって、一年くらい塞ぎ込んでいました。元気な頃は毎朝コーヒーを落としてくれて、その香りで目を覚ますような生活だったのが落としてくれる人が居なくなって、せめてもの供養に仏壇にミニカップをあげてコーヒーを淹れるというようなことをやっていたんですね。あるとき婿さんの友人が遊びに来てワークショップのようなことをやってくれたんです。好きな場所、好きなこと、やってみたいこと。それらをポストイットに書いていって組み合わせたら、“北星山で写真を撮ってコーヒーを飲む”というキーワードが出来上がった。そうか、ああいいかもなあと。じゃあ俺、明日から行くわって次の日から始めたんです」。
スマホで撮影しているうちに次第に欲が出てきた日向さんは、正月休みに一眼レフカメラをポチってしまう。それからアップする写真はさらに磨きがかかった。
「綺麗に撮れたときは嬉しくてこの素晴らしい場所を人に紹介したいなと。それでSNSに発信するようになって」。

水田の鏡
↑春先、田んぼに水が張られた一時期にだけ現れる水田の鏡。

―― 毎日、撮影するようになったことで何か発見はありましたか?

「太陽の昇る位置が一年の間に大きく変わるんです。天気は毎日違うし、同じ日がないのが面白い。あの日に撮れた写真をもう一回と思っても、同じ日は二度とない。人生の瞬間と似ているなあと。1日、1日を大切にしないといけないとか、改めて再確認しています。その瞬間というのは二度と取り戻せない」。

――町の魅力を再確認した感じですか?

「考えてみると昔からあの展望台が好きでした。街並み、田園、丘陵地帯、そして十勝岳連峰がある。この富良野圏域でも手軽に全体を見られる場所というのはあそこしかない。初めての人は誰でも『おおーっ!』ってひと声上げますからね。陽が昇ると『わー!』って、ああいうのを聞くだけで嬉しくなります」。
最近はこの美しい田園風景を見ながら、中富良野の開拓の歴史を伝えられないだろうかと考えているという。先人たちが残してくれた豊かな田畑と観光を結びつけるきっかけ作りを、美味しいコーヒーを飲みながら思索し模索する日々だ。

あの日に撮れた写真をもう一回と思っても、
同じ日は二度とない。
人生の瞬間と似ているなあと。

Profile

1958年6月生まれ。日向板金店代表。高校、大学時代はスキーに没頭し、現在も足繁く雪の上に立つ。なかふらの観光協会長、中富良野町商工会副会長。座右の銘は「身を削り人に尽くさんすりこぎの その味しれる人ぞ尊し 道元禅師」。

日向 猛
日向 猛ひなた たけし
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