シナリオのない物語

さて、物語を始めよう。
テーマは「北海道移住」に関するものだ。
「引っ越し」と少し違うのは、働く環境も付き合う人も身を置く場所も、生活すべてが変わる可能性があるということだ。
移住することが、リセットになるのか、リボーンになるのか、それは人それぞれだけれど、それなりの冒険になることは間違いない。北海道を拓いた先人たちがそうであったように、時代が変われども移住と開拓にはかならずや冒険がつきまとうものだということも、頭の隅に置いておく必要があるだろう。
いま私たちの社会は人類史に残る厄災と混乱の中にあり、あらゆる社会環境が急速に変わりつつある。このような変化の中でテレワークやワーケーションという言葉がスポットを浴び、日本全国の地方自治体がもろ手を挙げて迎え入れようと準備を整えている。あからさまに言えば、この小冊子もまたその呼び水になればという思いから作られたものだ。だから、そんなつもりで読んでいただければ、この小冊子の目的は達成されることとなる。
とはいえ、移住をする人の気持ちは実に複雑であり、同時に驚くほど単純であったりもする。これは、自分自身が何のツテも持たずに移住した人間としての正直な気持ちである。そして、僕の周りにいる移住してきた人たちの多くも、自分の心に灯ったぼんやりとした明かりを頼りにやってきた人がほとんどだ。
手探りで歩きながら準備を整え、いくつもの課題を乗り越えつつ、そのぼんやりとした灯りを信じて自らの生活基盤を形づくる。その中に自分らしく生きる意味を見出し、手助けしてくれる人が現れ、だからこそ腹の底から笑い合える仲間ができるのだろう。
自分らしく生きるということは、歩み続ける中で成熟していくものだから、いくら算盤を弾いても、その通りになるとは限らない。どこを選んでも多くの場合、予想外の出来事が待ち受けている。
ただ、あなたの心に灯った明かりの方向が北の大地であったとするなら、同じベクトルを持つ同質の民として、僕たちが生活する環境についてお伝えすることはできるし、何か響いてくれるものもあるだろう。それは利便性の類いではなく、もっとセンシティブなものだ。
この小冊子はそのような気持ちを抱きながら制作した。
極私的な話で恐縮だが、僕が移住して3年ほどが経ったとき、「この町には何もないんだよねえ」と少しばかりいい気になって漏らしたことがある。その言葉を、道産子の友人は聞き漏らさなかった。
「まだあちら側に軸足があるんだね」
このひと言は僕の定まらなかったお尻を、落ち着かせてくれることに役立った。自分はいったい何を欲しがっていたのだろうと自問自答したとき、ようやく僕はこの土地で生きることの素晴らしさを再認識することができたのだ。
これから移住という冒険に旅立ちたい人も、なんとなく北の生活に憧れを抱く人も、この小冊子によって中富良野という小さな町に関心を持っていただけたなら、編集者としてこの上ない喜びだ。執筆、そしてインタビューにご協力いただいた方々にこの場を借りてお礼申し上げたい。
人は自然の中にあってこそ学ぶこと多く、まして北国の生活はより深い思索と工夫を求められる。その中で生き生きと暮らす自分を俯瞰することができるなら、北の大地ほどおもしろい舞台はない。そこにあなただけの物語が生まれる。

「ナカフライフ」編集長 加藤雅明

北海道って、ゾウの顔に似てない?
あ、なるほど〜。
ちょうど目のあたりが中富良野かな。

中富良野って、どの辺り?と思ったら、このゾウさんの絵を思い出してください。ちっちゃいおめめだけれど、ちょうど北海道の真ん中にあることがお分かりでしょう。 中富良野町は、実はどこに行くにも便利な町なんです。生活するうえで行動半径を広く保てるのは、とっても助かります。
もうひとつ。統計的に自然災害が少ないエリアでもあります。でも、防災対策は念入りに行われています。
便利で安心、そして綺麗! ほっかいゾウのおめめは、そんな場所です。

ほっかいゾウ
宮川美加(イラスト)
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